【エキスパート向け】Geminiで作るExcelマクロ:安全な作成・運用ガイドライン
【重要】必ずお読みください
Geminiを使えば、これまで専門的な知識が必要だったExcelのマクロ(VBAコード)を、日本語の指示だけで作成することが可能です。これは、個人の定型業務を自動化し、生産性を飛躍的に向上させる大きな可能性を秘めています。
しかし、その手軽さの裏には重大なリスクが伴います。
マクロは、意図しない動作をした場合に重要なデータを破損・消去したり、業務に深刻な手戻りを発生させたりする可能性がある、小規模な「プログラム」です。
つきましては、本ガイドを読む前に、以下の事項に同意いただく必要があります。
1. 本ガイドは高度な利用方法を扱うものです。
基本的なPCスキル、Excelの操作、および自身が自動化したい業務内容について、完全に理解していることを前提とします。
2. 作成したマクロの動作責任は、すべて作成者本人にあります。
AIが生成したコードであっても、それを実行する判断をしたのはあなた自身です。
3. 弊社は、個人が作成したマクロのサポートを一切行いません。
「うまく動かない」「エラーが出る」「修正してほしい」といった、個別具体的な問い合わせには原則として対応できません。
4. 利用は、個人の業務範囲に限定してください。
部署をまたいで使用するファイルや、会社の基幹業務に関わる重要なファイルでの利用は、絶対に避けてください。
以上のリスクと責任をすべて理解し、同意いただける方のみ、この先のガイドをお読みください。
このガイドは、それらのリスクを可能な限り低減させ、安全にAIを活用するための手順を示すものです。
【始める前に】あなたはマクロ作成に挑戦する準備ができていますか?
以下の質問にすべて「はい」と答えられない場合は、このガイドの実践はまだ早いかもしれません。まずは通常のGeminiの活用に慣れることから始めましょう。
□自分が自動化したい業務のすべての手順と例外パターンを、他人に説明できる。
□Excelの「元に戻す」が効かない操作があることを知っている。
□「ダミーデータ」と「本番データ」の違いを理解し、自分で安全なテストデータを用意できる。
目次:安全なマクロ作成の5ステップ
AIと対話する、安全なマクロ作成の5ステップ
事故を防ぐ秘訣は、いきなり「マクロを作って」とAIに頼むのではなく、人間がシステム開発を行うのと同じプロセスを、AIとの対話を通じて踏むことです。
ステップ1:やりたいことの整理(要件定義)
まず、Geminiに指示を出す前に、あなた自身が実現したいことを日本語で具体的に書き出します。
例外ケース: もし〇〇というデータがあったら、通常とは違う処理をするか?(例:「金額が0円の行は無視する」「特定の文字列が含まれていたら色を付ける」など)
理想の結果: 最終的に、どのような形(レポート、集計表など)になればゴールか?
ステップ2:AIによる要件の壁打ち
次に、その内容を基に、AIに「考慮漏れがないか」をチェックしてもらいます。これが、事故を防ぐ最も重要なステップです。
プロンプト例:
私は「毎日の売上データを、商品カテゴリー別に集計して月次レポートを作成する」という作業を自動化するExcelマクロを作りたいです。
安全に事故なく運用できるマクロを作りたいので、このマクロを作成する前に、私が考慮すべき点、確認すべき例外的なデータやケース、仕様として決めておくべきことを、専門家の視点からすべてリストアップしてください。
この「壁打ち」により、自分では気づかなかった例外ケースや、曖昧だった仕様が明確になります。
ステップ3:詳細な指示によるマクロ作成
ステップ2で明確になった要件をすべて盛り込み、具体的な作成指示を出します。この際、以下の4つの要素を必ず含めるようにしてください。
1. トリガー(実行のきっかけ): シート1にある「実行」ボタンに登録するマクロ
2. 対象範囲: 「データ」シートのA列に値が入っている最終行までを処理対象とする
3. 出力形式: 結果は「集計レポート」という名前の新しいシートに、表形式で出力する
4. ユーザーへの通知: 処理の開始時に「処理を開始します」、正常終了時に「完了しました」、エラー発生時にはエラー内容をメッセージボックスで表示する
ステップ4:AIによるテストデータの生成
マクロが完成したら、テストに使用する「ダミーデータ」もAIに作ってもらいます。
プロンプト例:
先ほど作成したマクロをテストしたいです。
正常に処理できるデータパターンと、ステップ2で洗い出した「金額が0円の行」「カテゴリー名が空欄の行」といった例外ケースをすべて網羅した、リアルなテストデータを20件、CSV形式で作成してください。
ステップ5:安全な環境でのテストと確認
本番のファイルは絶対に使わず、以下の手順でテストを実行します。
1. ファイルをコピー: 本番で使っているExcelファイルをコピーし、テスト用のファイルを作成します。
2. ダミーデータでテスト: コピーしたファイルに、ステップ4で作成したダミーデータを貼り付け、マクロを実行します。
3. 結果の目視確認: 想定通りの集計結果になっているか、例外データが意図通りに処理(または無視)されているかを、自分の目で厳密に確認します。
本番のファイルで直接マクロを試すのは、結婚式のウェディングケーキで、ぶっつけ本番の新しいレシピを試すようなものです。失敗は許されませんし、取り返しがつきません。必ず、コピーしたファイルとダミーデータでテストしてください。
おわりに
このガイドで示した手順は、一見すると少し面倒に感じるかもしれません。しかし、この手間を惜しむことが、過去に起きたような大きな業務事故に繋がります。
なお、このガイドで説明しきれない複雑なマクロや、部署全体で利用するようなツールの作成については、個別のプロンプト相談には応じかねます。その場合は、正式な案件として貴社の弊社担当窓口にご相談ください。
もし、このガイドを読んで「自分の業務の例外が多すぎて、何から考えればいいか分からない」「テストのやり方がいまいちピンとこない」と感じたなら、それはあなたが慎重で、リスク管理能力が高い証拠です。
無理にマクロ作成に挑戦する必要はありません。その業務は、AIによる自動化ではなく、正式なシステム開発として、貴社の弊社担当窓口までご相談ください。迷った時は、何もしないのが最善の安全策です。
ルールと手順を守り、安全にAIを活用して、日々の業務を効率化していきましょう。